中国EV業界のダークホース「AITO」とは?そして自動運転は当たり前になるのか?
2025年05月31日
先週、中国の上海と江蘇省を訪れました。前回の訪問から7年ぶりの中国でEVの普及に衝撃を受けた記事を書きましたが、今回は「EVの普及はもはや当たり前」という前提で、どんな驚きが待ち受けているのかを胸に、上海の空港に降り立ちました。
空港を出ると、やはりナンバープレートが緑色の電気自動車(EV/PHEV)が道路の3分の1ほどを占めて走っていました。EVの普及が進んでいると言われる東京23区でさえ、15台に1台EVを見かけるかどうかという状況を考えると、上海の「3台に1台」という前回受けた衝撃は今でも鮮明に覚えています。しかし今回は、EVがごく普通に走っている光景に特に驚きはありませんでした。特に、バスとバイクはほぼ100%EVでしたね。
ここで客観的な事実を少しだけ付け加えます。上海の中心部でEVが普及しているのは確かですが、もちろんEVがそこまで普及していない地域(特に中国の西部や北部)もあります。とはいえ、全体的に見ても、2024年の新車販売に占めるEVの割合は50%近くに達しており、これは驚異的としか言いようがありません。
EV普及の先にどんな世界が待っているのか?
今回焦点を当てたいのは、EVのその先にある世界です。
EVの話になると、「環境のため」というキーワードがよく出てきますが、中国や東南アジアの一部地域では、EVへの移行によって市中の排気ガスが減り、空気がきれいになったのは紛れもない事実です。中国ではまさにそれを実感しました。20年前に中国に行ったことがある人に聞けばわかると思いますが、当時は息を吸うだけでむせたり、鼻をかんだら鼻くそが黒かったり…と、いかに空気が汚かったかというエピソードがたくさん出てきます。中国の印象が20年前で止まっている人も多いようですが、今は空気がとてもきれいになりました。
しかし、環境のため以上に、私はEV普及の先には「移動のスマート化」と「エネルギーの自立分散型化」という世界が待っていると考えています。長期的に見れば環境に貢献することはもちろんですが、この2つの目的が非常に重要になってくるのではないでしょうか。
特に少子高齢化が進み、エネルギー自給率が低い日本では、「移動のスマート化」と「エネルギーの自立分散型化」が喫緊の課題です。これらを達成するためには、EVの普及が不可欠だと感じています。
AITO、LUXEED、STELATO──中国EV業界のダークホースたち
中国のEVと聞いて、おそらく日本ではまずBYDの名前が挙がるでしょう。実際、世界的に見ても、BEVとPHEVを合わせるとBYDはテスラを販売台数で上回りました。それほどBYDの勢いは凄まじく、世界的な知名度も飛躍的に向上しました。
中国でもBYDは当然ベストセラーです。その他にも、バッテリー交換式で有名なNIO、理想汽車(Li Auto)、そして最近有名になりつつあるXiaomi(シャオミー)といったブランドが話題になっています。
しかし、私が今回個人的に注目したのは、「AITO」というブランドです。もっと言えば、AITO、LUXEED、STELATOという“3兄弟”ブランドです。これらのブランドは(今のところ)中国でしか展開していないため、海外ではほとんど知られていないでしょう。
では、なぜ私がこの3つのブランドに注目しているのでしょうか?簡単に説明しましょう。
AITO、LUXEED、STELATOは、いずれも中国のテクノロジー大手であるファーウェイ(Huawei)が自動車メーカーと提携して展開しているEVブランドです。ファーウェイは自動車自体を製造するのではなく、自社の持つスマートカー技術(HarmonyOS、自動運転支援システムなど)を提供し、共同で製品の定義、デザイン、マーケティング、販売などを行っています。
- AITO(アイト、問界): 中国の自動車メーカーであるセレス(Seres、賽力斯)とファーウェイの提携によって生まれたEVブランドです。「Adding Intelligence to Auto」(自動車にインテリジェンスを追加する)の頭文字に由来し、ファーウェイのHarmonyOSを搭載。高度なインフォテインメントシステムや自動運転支援機能を特徴とし、中型SUVなどがラインナップされています。
- LUXEED(ラクシード、智界): 中国の自動車メーカーである奇瑞汽車(Chery)とファーウェイの提携によって生まれたプレミアムEVブランドです。セダンやSUVなどがラインナップされており、ファーウェイのスマート技術が深く統合されています。
- STELATO(ステラート、享界): 中国の自動車メーカーである北京汽車(BAIC)とファーウェイの提携によって生まれたEVブランドです。主に高級セダンなどがラインナップされており、ファーウェイの先進的な駆動システムやHarmonyOSが搭載されています。
これらのブランドは、ファーウェイが自動車産業における影響力を拡大するための戦略である「Harmony Intelligent Mobility Alliance (HIMA)」の一環として展開されています。
お分かりいただけたでしょうか?
これら3つのブランドの共通点は、ファーウェイのOSが搭載されていることです。日本ではファーウェイですら知名度が低いですが、実は世界全体のスマートフォンOS市場では、Android(約70%シェア)、iOS(約25%シェア)に次いで、ファーウェイのOSが4%のシェアを持っています。Google開発のAndroidやApple開発のiOSとはかなり差があるものの、世界のOSで第3位のシェアを持っているのはかなりすごいことです。(ちなみに中国国内ではAndroidが64%、ファーウェイが19%、iOSが16%と、ファーウェイがかなりのシェアを占めています。)
そんなファーウェイのOSが搭載されているAITOは、当然ソフトウェア面で非常に優れています。具体的には、以下の2点が挙げられます。
- HarmonyOSスマートコックピット: 車載インフォテインメントシステムにファーウェイ独自のOSであるHarmonyOS(ハーモニーOS)を搭載しています。これにより、スマートフォン、タブレット、スマートウォッチといった他のファーウェイ製デバイスとのシームレスな連携が可能になります。例えば、スマートフォンからのスムーズな目的地設定、アプリ連携、音声アシスタントの活用などが挙げられます。
- 高度な自動運転支援システム(ADS): ファーウェイの第2世代ADS技術を採用しています。LiDAR、レーダー、カメラ、超音波センサーなどを組み合わせ、高精度な環境認識と、複雑な交通状況に対応する自動運転支援を実現。具体的な機能としては、車線維持支援、自動駐車、高度な緊急ブレーキアシストなどが含まれます。
そう、電気自動車である以上に、車両の知能化がとんでもなく進んでいるのです。車を電動化することに集中しすぎると、本来の目的の一つである「知能化」を忘れてしまいがちですが、車の知能化、つまり「移動のスマート化」こそが本質だと私は考えます。
自動運転は夢物語なのか?
日本でも最近、自動運転の話題が少しずつ出るようになりましたが、中国では実はかなり進んでいます。もちろん、街中で大量に走っているという状態ではありませんが、地域限定で実際にすでに走行しているのは事実です。
蘇州では、バス停やライドシェアの乗り場に行くと、「Robotaxi乗り場」という看板が立っていました。そして、蘇州の街中にもこのような看板をいくつか見かけ、本当に驚くばかりでした。
日本では2025年問題で、物流業界の人手不足が深刻になっていることが話題になっています。今回、私は自動運転トラックにも乗せてもらいました。高速道路はもちろんのこと、一般道路も走行するのです。当然、信号も検知できますし、車線変更もできますし、高速道路の出入りもできます。一部、高速道路の料金所に入る際などは手動で運転する必要はありますが。
まさに「百聞は一見にしかず」。こちらの動画をご覧ください。
いや〜、今回も中国のEV事情には本当に驚かされました。わずか1年前からさらに進化を遂げています。この目まぐるしい進化にはため息が出るほど感服しますが、同時に日本ではこの波に置いていかれないように頑張らなければ、と強く思いました。
中国に関する情報はネット上に溢れていますが、ネットやSNS上の一部極端な情報(さらに一部偽情報)に踊らされず、ぜひご自身の目で一次情報を確かめてみてください。
車の電動化、そして移動のスマート化はこれからさらに進んでいくでしょう。中国の発展ぶりから目が離せません。