環境にも社会にも優しい。ソーシャルプリンティングカンパニー大川印刷

2021年05月06日

環境に優しく、サステナブルな印刷会社なんて存在するのだろうか?100年以上の歴史を誇る横浜に本社を持つ大川印刷は持続可能な社会づくりの先端をずっと走り続け、多くの当たり前を覆しながら、印刷業界の新しい未来を切り開いているのだ。

過去、現在と未来を繋ぐ

大川印刷は1881に創業され、当時は添付文書やパッケージの印刷、または医薬品ラベルなどの印刷をしていた。40人前後の社員を抱えているのですが、社内では結束力が硬く、良好なコミュニケーションを保ちつつも、閉鎖的にはならず、むしろ小学生から大学生、企業や一般の方々向けに工場見学を積極的に受け入れているという。

創業から間もなく140年が経ち、現在は6代目の代表取締役である大川哲郎氏が、2005年に5代目の社長である母親から経営を受け継いでいる。4代目の社長である哲郎氏の父親英郎氏は1987年に医療ミスで急逝したとき、哲郎氏が人間不信になり、ブルーズ音楽への情熱を追い求め、日本を離れて短期滞在だがアメリカの南部でしばらく滞在した。そこでは、温かく出迎えてくれた黒人の仲間がいた。しかし、それと同時にその仲間たちが何百年もの人種差別を受けてきた現実を思い知らされた。差別を受けながらもたくましく誇らしげに生き続ける黒人が生み出したのはブルース音楽だった。哲郎氏の辛い日も嬉しい日も共にしていたのはブルーズだった。いずれ会社を受け継いだ時、自分の立場と権力を活かし、世界の不平等や課題をいかに解決できるか、アメリカで過ごした日々にたくさん悩まされ、考えさせられたのだ。

1990年代、現社長・大川哲郎氏が会社をサステナブルな経営という新たな方向へ舵を切ったのだ。2005年に自社をソーシャルプリンティングカンパニーと呼び、2017年に社会的ミッションを掲げて会社のブランディングを刷新した。アメリカで大きな刺激となったブルーズをブランドイメージとして、会社の「ブルーズクレド」を作った。そして、自社社員の名刺には、哲郎氏自身が選りすぐったブルーズミュージシャンの名言からとったそれぞれ違うメッセージが印刷されている。

基本理念:ESGからSDGsへ

大川印刷は情報産業の中核として信頼に応えると喜びを分かち合える「ものづくり」の実現を基本理念としている。これは、いわゆるESG(環境、社会、企業統治)の経営戦略だ。具体的に、ソーシャルプリンティングカンパニーとして、環境やコミュニティを大切にする要素を会社の事業に取り入れることによって大川印刷と同じ理念を持つ法人や個人のお客様を惹きつけるということだ。

一度人間不信になった大川社長は「信頼」を重んじ、信頼関係で結ばれた透明性のある会社の重要性をよくご存知だ。そのため、国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs)へのコミットメントを表に出しながら、CSRレポートを毎年欠かさずに公表するようにしている。

2018年に大川印刷は第二回ジャパンSDGsパートナーシップアワード(パートナーシップ賞)を受賞した。印刷会社としては初めての受賞となった。この賞に選出されたポイントとして、「全社員へのSDGs教育を実施し,ボトムアップ型で SDGs経営戦略を策定した」と挙げられている。

SDGsの17の目標のうち、大川印刷は以下の5つに注力している。

  1. 安全な水とトイレを世界中に(目標6)

  2. エネルギーをみんなにそしてクリーンに(目標7)

  3. 働きがいも経済成長も(目標8)

  4. つくる責任つかう責任(目標12)

  5. 陸の豊かさも守ろう(目標15)

大川印刷は以上のSDGsの目標を掲げながら、ESG(環境・社会・企業統治)に以下のように取り入れている。

環境:

  • ゼロカーボンプリント

  • FSC®森林認証紙の使用推進

  • ノンVOC(石油系溶剤0%)インキ使用

  • 有機則非該当の洗浄液への切り替え

  • CO2ゼロ印刷

  • 有機則該当有機溶剤使用ゼロ

  • ゴール:2030年までに自らの印刷工場で再生可能エネルギー100%を目指すだけでなく、紙やインキの製造、流通など事業の活動に関連する他社の二酸化炭素排出までゼロにすること。

現在、大川印刷は日本国内では印刷会社として唯一のCO2ゼロ印刷を実現している。2016年、本社・工場及び営業所で使用された水、電気、ガスの生産過程で排出され、さらに自動車や工場から直接排出されたCO2量を計算したところ、合計180トンに及んだ。この排出量をオフセットするため、J-クレジット制度を活用し、CO2ゼロ印刷を達成した。2019年、自社の太陽光パネルで20%、それから青森県の横浜町の風力発電で80%の電気を供給し、100%再生可能エネルギーを実現することができた。

国際的に認められた、温室効果ガスプロトコルイニシアチブ(GHGプロトカル)では、スコープ 1(自社の工業プロセスや燃料の使用による直接排出)とスコープ 2(自社が購入した電気・熱の使用に伴う間接排出)とスコープ 3(事業の活動に関連する他社の排出)という3つのスコープがあるが、現在大川印刷は、社員の通勤や出張、上流及び下流の流通、輸送、または廃棄物処理などを含む過程の二酸化炭素排出をゼロにするという、大胆な目標を掲げている。環境に優しい取り組みを徹底的にしているにもかかわらず、現状には満足せず、さらに大きなビジョンを持って前へ進む姿勢を見せる大川印刷は、環境問題への意識が高くて世界的に有名なブランドであるパタゴニアや、環境問題活動家としても活動されているアル・ゴア元米副大統領とも仕事をしている。

社会:

  • CSRレポートの発行とSDGs報告会の実施

  • オープンファクトリーの受け入れ

  • 地域交流会「川でつながるSDGs交流会」の定期的開催

  • 従業員のお子様を招いて「学びにおいでよSDGs」イベント開催

  • 多言語版おくすり手帳の開発と販売

  • セパレートエコカレンダー販売

  • ホームページ、Facebook、講演活動を通じた情報開示 (会社のYoutubeチャンネルはこちら)

大川印刷は食品ロスや飢餓問題に対する意識を高める、そして社内の親睦を図るため、サルベージパーティーを開催している。社員や地域の方々が賞味期限に近い食品を持ち寄ってパーティーをするのだ。以前は国際連合世界食糧計画(WFP)と共同で実施することもあった。また、大川印刷の社員の一人は、日本における食品ロスの問題と解決を取り上げるドキュメンタリー「もったいないキッチン」(2020年8月公開)にも出演している。

2011年に起きた東日本大震災の時、大川印刷は少しユニークな形で震災復興に貢献した。津波で流されたお寺の柱で何か作れないかと声をかけられ、大川印刷は広大なネットワークを探り、他のメーカーと連携し、お寺の柱で4本のギターを作ったのだ。 この4本のギターはオークションで、アフリカ系アメリカ人によるソウル・ファンクミュージックバンド「アース・ウィンド・アンド・ファイアー」と歌手の八代亜紀にプレゼントされた。「私たちは印刷会社だけではない。私たちが持つ技術とネットワークで様々なことができる」と大川社長が笑顔で言った。

企業統治

  • SDGs経営計画プロジェクトチームの取り組み

  • 情報セキュリティの教育

  • 品質保証部設置と社内安全教育の運用

  • チームワーク工場アプリ「RECOG(レコグ)」の導入と運用

  • 内部通報制度の運用

  • 事業活動に関わる環境法規制、その他法令の遵守

さらに、大川印刷は将来のチェンジメーカーを育てるため、ボトムアップ式モデルの人材育成に力を注いでいる。学生や難民とも一緒に働き、彼らの将来を切り開くサポートもしっかりしていくとのこと。

ソーシャルプリンティングカンパニーの本質は人間関係

ソーシャルカンパニーの本質はSDGsと同じく、「誰一人取り残さない」ということだと大川社長は信じている。そのため、この会社は人と人とのつながり、すなわち人間関係や絆を大切にしながら、お互いを支え合っている。

数年前まで、サステナビリティの価値なんて知らないという人が多かったと。「なぜそこまでやるのかと聞かれた時、 私は成功事例のストーリーを語り、個人や企業にSDGsの価値を伝えようとした。今では、SDGsの価値は社員にとってもお客様にとっても大きなプラスになっている。」

ここ3年間、会社の売り上げのうちの5千万円はサステナビリティに関連した仕事とのこと。そして、その金額が年々増加している。しかし、SDGsが普及すればするほど、SDGsの本質を理解せずに表面的な活動だけでSDGsに取り組むふりをする、いわゆるSDGsウォッシュの事例が多くなっているので、会社の取り組みを透明性を持って続けていく決意をした。

人のためになる、人を助けるということに情熱を注ぐ大川社長は有言実行だ。また、ブルーズ音楽との関係から生まれた価値観は今でも会社の事業や活動に深く根付いている。

進化し続ける日本の製造業は大きなポテンシャルを持っているが、もっと将来を見据えて考える必要がある。日本が海外の国のために何を提供できるかが肝心な要件になる。大川印刷はここ数年の活動でその問題への答えに対してヒントを出しているのではないだろうか。私たちが生きるこの世界がどんどん繋がっていけば、国と国とのコミュニケーションも増え、平等で人間味のある世界になることを願っている。

大川印刷6代目社長の大川哲郎氏。


執筆:デニス・チア(ユアスタンド株式会社

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