シンガポールから学ぶEV充電インフラの考え方

2022年12月12日

シンガポールでは2023年下半期からEV充電インフラに関する法律及び条件が変わります。EV充電の最新知識を身につけながら、事実に基づいて今後の需要予測及び目標を立て、法整備を進めるシンガポール政府の姿勢から学びましょう。

本記事は2022年11月9日に掲載されたシンガポール英字新聞The Straits Timesの記事からポイントだけ抜粋し、翻訳しています。執筆者のコメントも加えています。

変更点1:新築マンションにおけるEV充電器の設置義務(自動車+電動バイクの充電設備)

現在の法律では、新築マンションの駐車場の1%にEV充電器を設置すること、そして更に将来的に駐車場の15%にEV充電を供給できるほどの電力を確保することが義務化されています。

2023年下半期からは以下のように変更となります。

1駐車区画あたり1.3kVAをスマート充電のために確保すること。つまり、5区画ごとに充電用に7.4kWの電力を確保することが義務化されます。

例えば、100区画の新築マンションだと、100 x 1.3kVA = 130kVAをEV充電のために確保する必要がある。

ここで重要なポイントは2点あります。

ポイント1:充電器台数の制限ではないので、5区画に7.4kWの充電器1台でもいいし、5区画に7.4kWを3基設置し、パワーシェアリングすることも可とする。

ポイント2:電動バイクも含まれているので、低出力の充電器も想定されます。

「1駐車区画あたり1.3kVA」という数値に注目していただきたいのですが、これはOCPP規格においてミニマムな数値になります。日本の場合は電圧の関係で1.2kVAですが、OCPP充電器でパワーシェアリングした場合、最低限の出力は1.2kW(200V 6A)です。1駐車区画あたり1.3kVAの電力を確保することにより、将来的に全ての車がEVになるという極端なシナリオになったとしても、パワーシェアリングすることにより、1基あたりに最低限の1.3kW(日本の場合は1.2kW)の充電ができるようになる、という緻密な計算の上で出された数字だと言えます。

変更点2:総会決議の割合
現在:EV充電設備の導入について総会で90%以上の賛成をもって可決

2023年下半期から:総会で半数以上の賛成をもって可決

ちなみに、日本では普通決議の場合は半数以上、特別決議の場合は4分の3の賛成が必要となります。

EV充電設備の導入で90%以上の賛成が必要というのは、日本以上にハードルが高いです。総会での否決が原因で導入が進まなかったという背景があるかどうかわかりませんが、現場の課題を省庁レベルまで吸い上げて、解決に向けて法整備を素早く英断する姿は、日本政府も見習うべきなのではないかと思われます。

変更点3:充電器の設置条件(現在とあまり変わらない)
・基本的にOCPP対応の充電器のみ。
・定期点検が必須。
・LTA(シンガポール交通局)と充電データを共有することが必須。
・保守(保険への加入)が必須。
・充電器の正常稼働を維持することが必須。

ポイント:基本的にOCPP対応の充電器のみ設置しているのは、2つの原因があると思われます。1つは、パワーシェアリングをはじめとするOCPP規格の高度な機能を活かすため。もう1つは、OCPP規格で取得できる多様な充電データを今後活かすためだと考えます。

EV充電インフラを単純にものを物理的に設置するの作業だと考えず、IoTの力を最大限に活かし、今後電気容量の制御や電力需要のバランスを考慮した決断でしょう。また、EVが普及した時、充電履歴というビッグデータを活用し、社会全体に貢献できるような政策を更に打ち出せるでしょう。

シンガポールにおけるEV/PHEVストック(保有台数)

ちなみに、シンガポールにおけるEV/PHEVの保有台数は以下の通りです。

2021年12月のEV/PHEVストック:3634台
2022年9月のEV/PHEVストック:6466台(77.9%増)
乗用車を占めるEV/PHEVの割合(2022年9月時点):0.72%

日本との比較
日本のEV/PHEVストック(2022年3月時点):335,594台
乗用車を占めるEV/PHEVの割合(2022年3月時点):0.56%

日本の場合、6月以降の日産サクラや三菱eKクロスの販売数を考えると、同月で比較した場合、日本とシンガポールのEV/PHEVを占める乗用車全体の割合は近くなるのではないでしょうか。

結論

本記事を読んで思ったのは、シンガポール政府は2030年という遠い未来の目標を掲げながらも、現場の課題を把握し、その課題を解決すべく、IoTの力を最大限に発揮する方法を迅速に考え、そして法律として打ち出しています。

また、政策の中では、短期的な目標ではなく、EVが100%になった時の未来を想像し、EV充電から派生する様々な可能性を活かせる余地を持たせている気がします。今はパワーシェアリングは不要でも今後は絶対に必要、はたまたOCPP規格に潜むデータ活用を見据えてOCPPにこだわる姿勢など、こういう広い視野と長期的なビジョンが今の日本政府に求められているのではないでしょうか。

やはり、EVシフトという今世紀最大の転換期に順応し、時代遅れにならないためにも、既得権益や損得勘定などではなく、政府は事実を基に、課題解決を目的に政策を打ち出す必要があります。

EVという分野において、日本はだいぶ遅れており、そして様々な課題が残っているのは事実ではありますが、「できない理由を探す」のではなく、「できる方法を考える」ことが今の日本政府に求められているでしょう。


当社ユアスタンドは2018年から集合住宅を中心にEV充電設備を導入し、運用しております。日本の集合住宅におけるEV充電事業者のトップランナーとして、海外の事例を参考にしながら、日本の基礎充電インフラを整えてまいります。

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