【広島】マンション駐車場85区画分全てEV充電可能に
2023年04月13日 マンション・集合住宅
- 分譲
- 既設
- 全区画
- 新規引き込み
所在地:広島県広島市
戸数:85戸
設置充電器の種類:充電コンセント(3.2kW)
設置台数:32台
※85区画の駐車場全てに充電ケーブルが届くように設計されています。
背景
本マンションでは、居住者の藤井さんが2009年より自らデロリアンを電気自動車(EV)に改造し、EVを所有することになりました。しかしマンションの駐車場にはEV用の充電設備がなかったため、管理組合に長年、充電器を導入するよう提案し続けてきたそうです。
2009年というと、世界初の量産電気自動車である三菱自動車のi-MiEVが発売開始した年。EVの熱狂的なファンやアーリーアダプターならまだしも、一般の方には、電気自動車への関心どころか、存在や概念すら認識されていませんでした。
藤井さんからの充電コンセント設置要望に対し、管理組合も2014年、2019年、2022年と実に3回も住民アンケートを実施。マンション駐車場充電検討委員会まで立ち上げて準備を進めてきた結果、EVを所有して14年経過した2022年末、自宅マンションに念願の充電器設置が実現しました。充電サービスは2023年3月よりスタートしています。
しかも充電器は1基ではなく、なんと全85台分の駐車場が充電可能にするため、合計32台の充電コンセントが設置されました。首都圏以外では初の事例です。
本記事は、藤井さんと同マンション居住者で日産のEV「リーフ」を所有する藤田さんの取材に基づいて作成させていただきました。
EV所有から導入までの一連の流れ
2009年からEVを所有した藤井さんから、14年間尽力してきた過程を以下の年表でまとめていただきました。
余談ですが、藤井さんのデロリアンEV化計画のブログが非常に面白いので、興味のある方はぜひお読みください。
年月 |
具体的な動きや状況 |
2000年3月 |
藤井さんが現在の分譲マンションに入居。 駐車場は自走式で85台分。 |
2009年3月 |
デロリアンを自ら改造してナンバー取得。EVを所有する。 ただしマンション駐車場で充電できないので自宅外に保管場所を確保。 以来、マンションの管理組合総会で毎年のようにコンセント設置を要望。 でも「使った分の電気代徴収が難しい」と理事会から断られ続ける。 |
2014年9月 |
初めて住民アンケートを実施。 「プラグイン車ユーザーが少ない」ことから充電器導入は見送る結論。 |
2016年 |
リーフを購入した住民が現れる。 |
2018年6月 |
総会で改めてコンセント設置を要望。 |
2018年10月 |
地元業者から見積を取得。 結果はスタンド型ケーブル付き充電器1基で約53万円。 ①高額。 ②1回の充電時間が6時間以上かかるため専用の駐車区画の確保が必要。 ③共用部の電気総量が限られている。 以上の理由で現時点で設置は難しいと理事会が判断。 |
2019年6月 |
理事会交替。 総会で継続審議を依頼。 |
2019年8月 |
業者にコンセントタイプの見積を依頼。 1基設置で工事費込み約39万円。 |
2019年12月 |
2回目の住民アンケートを実施。 3:1で反対が多く導入は見送り。 <おもな反対理由> 「EV購入予定がない人に共益費から費用負担させるのは反対」 「EV所有者が全体の2分の1以上になった時に設置しても遅くない」 |
2020年3月 |
駐車場充電検討委員会を設置。 |
2021年11月 |
令和3年度補正予算で充電インフラ整備のための補助金が閣議決定。 |
2021年12月 |
「極めて有利な補助金」とマンション理事会に報告、申請を提案。 ただし2022年9月末までに申請する必要あり。 |
理事長から導入の条件提示。 ●全住民が等しく使える設備であること。 ●一部に先行設置するやり方は、後でトラブルになる可能性があるので避けてほしい。 この意見を踏まえ、基本方針を策定。 住民向け説明会の開催と、見積もりできる業者探しスタート。 |
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ユアスタンド株式会社に相談。 |
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2022年6月 |
ユアスタンドによる現地調査を経てプランと見積書作成。 コンセント32基設置で全駐車区画で充電可能とする案がまとまる。 駐車場に空きスペースがないため、共有充電設備の案は難しいと判断。 |
理事会交代。 総会で補助金を使って駐車場に充電用コンセント設置する案を提案。 これまでの経緯を説明し、別途住民向け説明会実施を表明。 |
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2022年7月 |
充電器設置に関するQ&Aを作成し全戸配布。 |
住民向け説明会開催。 ユアスタンド担当者も同席。住民約15人参加。 |
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2022年8月 |
理事会から再度の住民アンケートを求められ実施。 回答率54.1%。 「有利な条件なので申請していい」が63.4% となり、補助金申請手続きを開始。 |
2022年9月 |
補助金申請受付窓口である次世代自動車振興センターに申請書を提出。 |
2022年10月 |
申請から1ヶ月程度で交付決定通知書が発行。 |
2回目の住民向け説明会を開催予定。 |
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2022年11月 |
臨時総会で可決。 |
2022年12月 |
設置工事 |
2023年2月 |
運用開始 |
EVを買ったきっかけ
当マンションには藤井さん以外にもう1人、EV利用者の藤田さんがいました。2016年に初めてリーフを購入し、今も愛用されています。
藤田さんになぜEVを購入したのか聞いてみました。
以前はプリウス乗りでした。勧められてリーフに乗ったところ、車内が静かで乗り心地が良く、そして燃費もいいので環境にやさしい車だな、と感じました。最初は航続距離が心配でしたが、リーフを1週間試乗させていただける機会をいただいたので実際に乗ってみたところ、私の使い方だと問題ないと分かり、買うことにしたそうです。
当時は、日産自動車がリーフ向けに実施していたサポートプログラム「日産ゼロ・エミッションサポートプログラム」(以下、ZESP)がありましたので、ZESPカード(月額2000円)があれば、日産の販売店での充電料金は無料でした。充電コストはガソリンの給油よりも安いし、EVはオイル交換などのメンテナンスも少なく、車検などのランニングコストもガソリン車ほど掛からないなど、メリットは多いです。
EVを買う理由は人それぞれ
テスラをはじめ、電気自動車という革新的な技術に興味を持つ方、EVならではの圧倒的な加速力と車内の静寂性に惹かれる方、単純にガソリン車よりメンテナンス費用が掛からないので経済的という方。EVを買うモチベーションは人それぞれです。
どんな理由で購入したかはさておき、EVを運転するためには充電が必要です。そして、一番滞在時間が長い自宅に充電設備があると便利であることは間違いないでしょう。
マンションにおけるEV充電設備導入の壁
当マンションでは藤井さんの要望を受け、管理組合の理事会が2014年と2019年に住民アンケートを実施するなど、充電器設置について検討してきました。しかし当時は、実現に至りませんでした。マンションにおけるEV充電設備導入の壁はどこにあるのか、見てみましょう。
初めてアンケートを実施した2014年は、まだEV利用者が少ないという理由で、理事会で案件が見送りとなりました。2018年には、地元業者に充電器設置のお見積もりを取った上で、以下の3つの理由で再び却下されました。
・導入費用が高額。
・1回の充電時間が6時間以上かかるため専用の駐車区画の確保が必要。
・共用部の電気総量が限られている。
2019年に再度アンケートを実施したところ、以下の声が上がりました。
・EV購入予定がない人に共益費から費用負担させるのは反対
・EV所有者が全体の2分の1以上になった時に設置しても遅くない
反対の声及び懸念点を以下にまとめます。
1. 初期費用が高い
2. 共用部の電気容量が限られている
3. EVを所有していない居住者は費用を負担すべきではない
4. EV充電専用区画の確保が必要
5. EV所有者が居住者の半分以上になった時に設置しても遅くない
今回は上記の懸念点をどのように解消し、導入に至ったのでしょうか?
1〜3番は後ほど説明するとして、まずは4番目と5番目の懸念点についてお答えします。
「EV充電専用区画の確保が必要」というのは、必ずしもそうではありません。マンションの状況や運用方法、居住者の皆様のご希望は様々あるので、同じ設置方法や運用方法が適しているわけではありません。ニーズに合わせて、最適な提案をさせていただきます。例えば、来客用駐車場や洗車場など、すでにある共用部に充電器を設置し、居住者間でシェアリングで使っていただく方法もあれば、契約区画に設置し、利用者が自身の区画に車を停めながら充電ができる運用方法もあります。
「EV所有者が居住者の半分以上になった時に設置しても遅くない」という声については、EV利用者が先か、充電インフラが先か、という「鶏と卵」の問題に似ています。しかし弊社は経験から、EV利用者が増えないのは、マンション内に充電インフラがないからだと捉えています。というのも、弊社がEV充電器を導入したマンションの多くは、導入後にEV利用者が顕著に増えているからです。
ご参考まで、2つの導入事例を紹介させていただきます。
・マンションへEV充電器を導入したら1年でEVが1台から4台になった。
・老朽化した機械式駐車場を平面化し、EV充電専用区画にしたら9割埋まった
転換期は2021年?
2019年末のアンケートで反対多数となった当マンションの充電器設置計画ですが、2021年に転機が訪れます。令和3年度補正予算で、集合住宅におけるEV充電インフラの設置に「異次元」と呼ぶべき手厚い制度が決まったのです。充電設備導入に関わる工事費用の全額、充電器機の半額に補助金が出るという内容でした。もちろん規定上限額を超えたたり、補助金対象外の工事が発生したりした場合は自己負担も増えますが、それでも大部分が補助金でカバーできるため、マンションにEV充電設備を導入するハードルがぐんと下がったと言えるでしょう。
この変化は前年の2020年、当時の菅前総理が「2050年までにカーボンニュートラルを実現する」と宣言してから、様々な分野で起きました。日本で二酸化炭素排出の17%を占める「移動部門」において、走行中にCO2を排出しない電気自動車へのシフトが少しずつ動き出したのです。海外で脱ガソリン車が急ピッチで進む中、日本も2030年代半ばまでに、販売される新車は全てハイブリッド車を含む電動車にする方針が発表されました。こうした国の方針が定まり、目標を達成するための補助金が予算化されるという流れが出てきたのではないでしょうか。
補助金を活用すれば導入費用は大幅に減少するので、当初出ていた懸念の1つ「初期費用が高い」は解消されます。実際、当マンションでかかった導入費用合計1,141万円のうち、約1000万円が補助金でカバーできました。結果として管理組合の負担金額は150万円程度で済みました。85区画が充電可能になったので、1区画あたりで割ると、1区画(1世帯)あたりの負担金額は2万円以下になります。
EV充電用の新規引き込み
2021年にはもう1つ大きな出来事がありました。同年4月以前は、1つの需要場所に1つの電気契約しかできませんでした。EV用急速充電器を設置する場合は例外として認められていましたが、マンションで急速充電器を設置する事例はほとんどありません。2つ目の懸念点である「共用部の電気容量が限られている」という課題について、なかなか打開策がありませんでした。
それが、1需要場所・複数引き込みが一定の条件の下で可能となったのです。簡単にいうと、EV充電を目的に普通充電設備を設置する場合、電柱から新たなに電気を引き込んで充電用の分電盤を設置する、2つ目の電気契約ができるようになりました。
参照:https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/oshirase/2021/04/20210401-03.html
現在ではマンションの共用部の電気容量が足りなくても、この特例を活かして新たに電気契約を締結すれば問題が解決します。また弊社のシステムでは「輪番充電」機能があり、同時充電可能な台数を制限することもできるため、全台分の電気容量を確保する必要はありません。
運用時にあたっての受益者負担
2021年1月、藤井さんは、新しい補助金制度の内容を揃えて再度、管理組合に打診しました。「まだ諦めていなかったのか」という声もあった一方、好条件が理解され、改めて導入を検討することになりました。その際に理事長(当時)から示された条件が2つありました。
●全住民が等しく使える設備であること。
●一部に先行設置するやり方は、後でトラブルになる可能性があるので避けてほしい。
当マンションにはEV充電ができる「共用部」がないので、全住民が平等に使える設備を導入するためには、植栽を削って充電専用の共用部を新設するか、全契約区画にEV充電器を設置するか、という選択になります。このハードルが高い条件をクリアするため、弊社の営業と工事部のメンバー、そして藤井さんをはじめマンション住民の皆様が協力し、2、3区画ごとに充電用コンセントを設置することで、全区画でEV充電可能な設計案を作り上げました。
このプランを基に2022年8月に3度目の住民アンケートを実施したところ、初めて過半数から賛同が得られました。「これからは必要な設備でマンションの資産向上につながる」「いつか自分が使う予定」という期待の声を受け、補助金を申請。弊社の工事部門が施工した結果、年末までに①1需要場所・複数引き込みの特例を活用②充電用の電気契約を締結③85台分の駐車区画に32台の充電コンセント設置ができました。電気代のお支払いに関しては、利用者が弊社の専用アプリを使って利用時間に応じてクレジットカードでお支払いいただきます。電気代は利用者が使った分を直接お支払いする受益者負担形式なので、EVを所有していない居住者には全く費用負担がありません。結果として、理想的な設備が整いました。
マンションにEV充電設備導入をご検討されている管理組合へ
マンションにEV充電器を設置するには、居住者のヒアリングや合意形成、そして導入方法や運用方法の策定など、決して順風満帆ではなく、簡単ではないかと思われます。
弊社はマンションに特化したサービス内容と機能を提供していますので、それぞれのマンションに最適な提案をさせていただきます。
導入をご検討の方はぜひ、弊社にお問い合わせください。